雨が呼び込んだ波乱のレース戦略 幸運を呼び1ポイントを獲得
悩ましい雰囲気のDTECチーム・マスターワンは、第4戦の舞台、岡山国際サーキットに居た。いくつかのパーツやユニットを、本来の性能が発揮できるように『調整』した以外、大きな変更点はない。最大のポイントとなるタイヤはブリヂストンであり、そこもまた変更されない。
折しも大型の台風が九州地方から関西方面へ、つまり岡山を通り過ぎる予報が出ていた。問題は、その台風の雨がどのタイミングで降り出すか? ということだ。
土曜日の予選、台風は熱帯性低気圧に変わり、進路は日本海のほうへと変わり岡山に雨は降らなかった。
路面温度も高くなった予選、今回もA組B組に分けてのタイムアタックだが、それでもコース上は混雑し、クリアラップを取りにくい状況だった。76号車坂本選手もまた、スペースを開けてアタックに入ったのだが、予想以上に早く先行車に追いついてしまう。再度のアタックのためには、もう一度スペースを開ける必要があり、そのために1周を使わなければならない。
結局、遅いクルマに引っかかってタイムロスした周回が予選タイムになってしまった。予選はA組で8位。これは第1戦と同じワーストポジションだが、今回は15番グリッドからのスタートとなる。本来であれば、もっとタイムアップできた可能性は高いが、これでまた苦しいレースが予想された。
しかし、そうした予定調和が狂わされたのは、天候だった。日曜日、雨が降ったのである。
「恵みの雨? かもしれないよ」
額田プロジェクトリーダーは笑みを浮かべていた。そこにタイヤチョイスが影響していたからだ。
一般的には予選はニュータイヤでアタックするのが、順当なハナシだ。しかしニュータイヤはまだ磨耗していないのでブロックが高く、ブロック剛性が低くなってしまう。物理的にブロックがヨレてしまうからだ。
それに対してタイヤを磨耗させてブロックを低くすれば、ブロック剛性は高くなる。そのほうがドライビングしやすいだろうし、ラップタイムが上がる可能性もある。ただし磨耗させる方法として、タイヤに強い力を入れてしまうと偏磨耗になり、熱を入れてしまうとゴムのグリップ力が低下してしまう。
このように、力も熱も入れずに磨耗させたタイヤのことを、なぜか『ユーズド』(=使用済み)と呼んでいる。クルマに装着して磨耗させるには、力や熱が入ってしまうはずなので、使用はしていないはずなのだが……。
そこで雨が降ってしまった。予選はドライだったので、『ユーズド』でタイムを出したドライバーが何人か居たようだが、磨耗している分だけ溝が浅くなってしまっているわけで、当然ウエット性能は期待できない。
上位グリッドに着いた何人かのドライバーはミラーをいつも以上に慎重に調整しながら、自分のポジションダウンをどれだけ小さくできるか? に集中していたことだろう。
実は76号車坂本選手には『ユーズド』は存在しない。つまりニュータイヤでタイムアタックをし、少し使用したタイヤでウエットレースを戦うことになる。それは明らかに有利な状況だった。
しかしローリングスタートからの第1コーナー、坂本選手はブレーキングでグリップを失ってしまい、そのまま真っ直ぐにグラベルへと飛び出してしまう。コース復帰した時には、順位は21番手にまでランクダウンしてしまっていた。
SUGOの時もそうだったが、レーシングアクシデントに見舞われた時、坂本選手は覚醒する。1Lapごとにオーバーテイクを繰り返し、ポジションをひとつずつ取り戻していく。
トップで後続を引き離していく平川選手のタイムに、肉薄するラップタイムを出す。ファステストラップこそ記録できなかったものの、そのタイム差はわずかだった。
ファイナルラップに1台をオーバーテイクし、11番手のポジションでチェッカーフラッグを受けた。ポイントゲットまで、あと1つ。惜しいレースだった…。
と思っていたら、6位チェッカーの100号車が失格になり、坂本選手は繰り上がりで最終的に10位、初ポイント1をゲットすることができた。
物事というのは、何かひとつのキッカケで好転することがある。今回のポイントによって、飛躍を期待したい。