大挙84台ものエントリー!注目されていた86/BRZワンメークレースは、高い人気を得ていた。トヨタとスバルが注力したプロジェクトのテイクオフは、とりあえず大成功といっていいだろう。その熱気が伝わったかのように、初夏の富士スピードウェイは灼熱の地と化していた。
比較的早い時期から参戦を目指していた神奈川トヨタとマスターワンは、しかしさまざまな要件から「順調に準備が進んでいった」というようなことはなく、むしろプロジェクトリーダーであるマスターワンの額田店長はイライラする日々が続いていた。きっとその余波を受けたマスターワン・スタッフも居たのではないか、と少し心配になる。
ともかく、初年度なのだ。レギュレーションにしてもひとつずつ確認しながら、クリアにしていくしかない。ナンバー付き車両という制約もあり、運営側にしてもいろいろと手さぐりなのだろう。つまりいろいろな部分が手さぐりで「とりあえずやってみなけりゃ、判らない!」という空気が流れていた。
確かに何度か富士スピードウェイでテストをしたが、そもそも誰が速いのか、全然判っていなかった。タイムはいろいろと噂があったが、その確証もなかった。そしてタイムに最も影響するだろうタイヤについても、どこが速いのか、さまざまな情報が飛び交っていていた。
いろいろなことが露わになるはずの第1戦は、そんなところでスタートしていた。
いくつものタイヤをテストしてきたが、その結果、選択したのはダンロップ・ディレッツァとハンコック・ヴェンタスの2つ。予想される高い温度から、比較的タイムの落ち込みが少ないダンロップを使うことに決めた。
86/BRZレースでは、タイヤは予選とレースを通じて1セットで戦う。レース車検でマーキングされたタイヤを使わなくてはならない。コストダウンもその狙いだと思うが、それがまたレースにも影響する。
テストではタイムの伸び悩みも気になっていたが、結果的には予選で2分10秒586を記録。2つに分けられた予選グループで8位、トータルで16位ということになった。ポールポジションは2分8秒275だから、2秒2ほど遅れていることになる。その差はどこにあるのか?それもレースで探るしかない。
ワンメイクということで性能差が少ない。しかも、いろいろな事情により、エンジンのコンピュータをノーマルのまま、ということになった。それはつまり、180km/hでスピードリミッターが作動することを意味する。となると富士スピードウェイの特徴である、長いストレートを生かしたスリップストリーム合戦が見られないだけでなく、そもそもオーバーテイクするチャンスは少ないかもしれない、という読みもあった。
そして、その予想は当たってしまった。スタートで上手く先行車をパスした坂本選手だが、ヘアピン、そしてダンロップコーナーで他車との接触を避けたこともあって、順位を下げてしまった。1周目を終えて、順位は20位となってしまった。そこから坂本選手のオーバーテイクショーが始まった……、ら良かったのだが、そうはいかなかった。距離を詰めピタリと張り付くことはできても、先行車をパスするところまではいかない。
先行車は坂本選手のプレッシャーを感じているのか、何度か大きなミスをしてしまっていたが、それでもオーバーテイクは難しかった。延々と同じクルマのテールを目にしていた坂本選手は辛かったとは思うが、必要以上に攻めることもなく、大きな賭けをすることもなく、淡々とプレッシャーを与え続ける。プロフェッショナルなドライバーの冷静な仕事ぶりだった。
76号車は18番目にチェッカーフラッグを受けた。その後、上位にペナルティなどがあり、正式結果は17位。DTECチームマスターワンにとっては、不本意な結果といっていいだろう。
ただし、いろいろなデータや新しい発見もあった。その最大の発見は、上位陣は全てブリヂストンタイヤを装着していた、ということだった。